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東京地方裁判所 平成11年(ワ)7814号 判決 2000年6月23日

反訴原告

株式会社幸洋コーポレーション

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

鶴田信一郎

外一名

反訴被告

日本信託銀行株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

猪瀬敏明

主文

一  反訴被告が反訴原告に賃貸している別紙物件目録≪省略≫記載の建物の賃料は、平成一〇年一〇月二四日以降、一か月金一七四万九三三〇円(消費税別)であることを確認する。

二  反訴原告のその余の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用を三分し、その一を反訴被告の負担とし、その余を反訴原告の負担とする。

事実及び理由

第一反訴請求

反訴被告が反訴原告に賃貸している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成一〇年一〇月二四日以降、一か月一三四万五六四五円(消費税別)であることを確認する。

第二事案の概要

本件は、いわゆるサブリースの賃借人である反訴原告が、賃貸人である反訴被告に対し、借地借家法三二条に基づき賃料の減額請求をした事案である。

一  争いのない事実

1  反訴原告は、倉庫等のサブリースを業とする株式会社である。

2  反訴被告は、平成四年七月三一日反訴原告に対し、別紙物件目録記載の建物(本件建物)を、賃料は月額二〇六万九一〇〇円(消費税別、以下同じ)、期間は二〇年、目的は配送センター・事務所として第三者に転貸するとの約定で、サブリースとして賃貸し(本件契約)、引き渡した。

3  反訴原告と反訴被告は、平成八年一月二六日、同月六日からの賃料を一九六万五六四五円に改定した。

4  反訴原告は、平成一〇年一〇月二四日反訴被告に対し、賃料相場の下落を理由に、同日からの賃料を月額一三四万五六四五円とするよう求める賃料の減額請求をした。

二  争点

サブリースである本件契約において、借地借家法三二条による賃料減額請求ができるか、平成一〇年一〇月二四日以降の賃料額はいくらが相当か。

第三争点に対する判断

一  証拠(≪証拠省略≫、鑑定)によれば、次の事実が認められる。

1  反訴被告は、信託銀行であり、本件建物の敷地所有者から期間二〇年の信託契約に基づき土地の信託を受け、右土地上に本件建物を信託財産として建築しているものであり、土地と建物を管理運用して、その収益を同人に交付すべき立場にある。

2  反訴原告は、本件契約に先立つ平成三年一二月一〇日頃、反訴被告に対し、「サブリースシステム計画案」を提示した。そこには、「幸洋サブリースシステム(長期賃料安定保証システム)」との表現のもとに、賃料は三年ごとに七パーセントずつ改定する旨の記載がある。また、賃収入予定表が添付され、初年度から二〇年度までの各年ごとに、月額賃料、年間家賃収入額、収入累計が右基準に従って次第に増額していく様子が具体的な金額で示されている。

3  反訴被告が本件建物を建築するにあたっては、反訴原告から工事概要書が示され、反訴原告の指定する建築事務所が作成した図面に基づき、反訴原告が請負人となっている。

4  本件契約の契約書においては、反訴被告が「本件建物を賃貸借物件として一括賃貸」すること、反訴原告は「第三者に転貸する目的で賃借」すること、契約期間は二〇年でその後は五年ごとに合意更新すること、賃料は三年ごとに七パーセントずつ増額するものとするが、「土地・建物に関する租税その他の負担、土地・建物の価格その他の経済事情、近隣建物等の賃料相場等に著しい変化が生じた場合」は、反訴被告の側で「賃料を改定することができる。」こと等が規定されている。しかし、反訴原告の側で賃料を減額する旨の規定は存在しない。

5  鑑定の結果によれば、本件建物の平成一〇年一〇月二四日時点の継続賃料は、通常の賃貸借契約であれば月額一四六万三〇〇〇円であり、サブリースの適正賃料はそこから一〇パーセント程度減額した額が一応経済的には正当であることが認められるが(一三一万六七〇〇円になる)、鑑定人は、本件事案に則したサブリース賃料は借地借家法三二条につき裁判所の法律判断により解決すべきであると指摘する。

なお、証拠(≪証拠省略≫)中には、右鑑定の結果を不相当と指摘するものもあるが、鑑定の信用性を覆すには至らない。

二  前記争いのない事実及び右認定の事実によれば、反訴被告は土地所有者からの信託財産を管理運用するために本件契約を締結したものであり、反訴原告はそうした不動産所有者等と転借人との間に入ることを業とするサブリース業者であること、本件のサブリース契約の期間は二〇年で、もともと長期にわたる継続が期待されていたこと、本件契約は「長期賃料安定保証システム」による賃料保証を重要な内容とし、賃料が三年ごとに七パーセント増額する他に、事情変更により反訴被告による賃料増額もありうる一方で、平成四年の契約であるのに反訴原告が減額請求する規定は存在しないこと、本件建物も反訴原告の主導により建築されていることが認められる。こうした本件契約の特質によれば、借地借家法三二条の事由が生じたからといって、直ちに賃料の減額請求ができると解するべきものではないが、他方で平成四年当時の経済状況や事後の予測と、昨今の経済状況とに看過できない著しい変動のあることも周知であることに照らせば、約定賃料が相当賃料に比して不当に高額になる等の特段の事情がある場合には、賃料減額請求の余地もあるものと解される。これに反する当事者双方の主張は採用できない。

本件契約においては、平成四年七月の契約当初の賃料が月額二〇六万九一〇〇円、平成八年一月に改定された合意賃料が月額一九六万五六四五円であるのに対し、平成一〇年一〇月二四日時点での経済的に相当な額は一三一万六七〇〇円であるというのであるから、その金額の大小や合意賃料に対する割合その他に照らすと、賃料の減額を認めるべき前記特段の事由が存在するものと認められる。

三  しかしながら、他方で、前記のような本件契約のサブリースとしての特質に鑑みれば、その減額による経済的負担を専ら賃貸人である反訴被告に帰するべきものではないのであって、たとえ平成四年から平成一〇年にかけての経済変動が予測困難なものであったとしても、サブリース業者である反訴原告が賃貸人である反訴被告に比してより大きな部分を負担すべきものと解されるから、本件においては、合意賃料と経済的に相当な賃料との差額を反訴原告が二、反訴被告が一の割合で負担し合うのが相当と認められる。したがって、従前の合意賃料額(一九六万五六四五円)から経済的に相当な金額(一三一万六七〇〇円)との差額(六四万八九四五円)の三分の一である二一万六三一五円の範囲で減額を認め、平成一〇年一〇月二四日以降の賃料を一七四万九三三〇円と定めるのが相当である。当事者双方の主張のうち、右認定に反する部分は採用できない。

四  よって、本件反訴請求は、右の限度で理由がある。

(裁判官 齊木利夫)

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